耐震住宅100%実⾏委員会

耐震住宅100%レポート

【耐震100オピニオン】No.001

2020年2月26日
耐震住宅100%

「熊本地震で被災した耐震住宅は、なぜ倒壊してしまったのか?」

2020.02.26
新耐震基準策定ワーキンググループ

1.はじめに

耐震住宅100%実行委員会では、今後の木造住宅の新築において大地震でも倒壊しない耐震性を保有する耐震基準の設定、中古住宅を耐震改修する際に目標とする耐震基準の設定を目指し、新耐震基準策定WGにおいて、種々の検証を実施する。

まずは、基本事項の整理として、一般的な木造住宅の耐震設計の手法として、下記の検討方法が存在する。

  建築基準法による 仕様規定
  建築基準法による 構造計算
  品確法による 耐震等級1(仕様規定)
  品確法による 耐震等級2(仕様規定) → 長期優良住宅基準として設定
  品確法による 耐震等級3(仕様規定)
  品確法による 耐震等級1(構造計算)
  品確法による 耐震等級2(構造計算) → 長期優良住宅基準として設定
  品確法による 耐震等級3(構造計算)

※品確法とは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」を示す。
※仕様規定とは、法律で定められた構造や材料に関するルール(一般に壁量計算と呼ばれているもの)を示す。
※構造計算とは、建築基準法施行令第82条第一号から第三号までで構成されるルート1の計算方法(許容応力度計算)とし、公益財団法人日本住宅・木材技術センター発行の「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」に基づき計算を行うことが一般的である。

 建築基準法は、国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低基準を定めた法律である。
 品確法は、消費者が安心して良質な住宅を取得でき、住宅生産者などの共通ルールのもとで、より良質な住宅供給を実現できる市場の条件整備を目的とした法律である。
 どの手法も耐震性を確保するための法律による基準ではあるが、それぞれの評価方法により、どのような違いや、耐震性への影響があるのか示されたものはなく、住宅を取り扱う事業者、消費者にとって、どの基準で住宅を計画するのが良いのか、十分な検討資料の不足、説明による合意がない状態で進められているのが現状である。
 また、品確法による性能ランクの基準となる耐震等級1は建築基準法と同等の基準とされているものの、既往のレポートなどからは、仕様規定による評価方法では、同等の耐震性とならないとの報告もある。
 新耐震基準策定WGでは、これらの評価手法による違い、耐震性能の違いを検証し、今後住宅の建設を計画される事業者や消費者にとって参考となる基礎資料の作成を目指す。

 

2.新耐震基準策定の目的

 木造住宅においては、

・耐震性評価の方法には、簡易的な仕様規定と構造計算の2種類ある。
・仕様規定の必要壁量は大地震の度に見直しがなされてきた。
・昭和56年の改正以降は必要壁量の見直しはされていない。
・熊本地震の際には、長期優良住宅(仕様規定による耐震等級2)の認定を受けていた住宅が倒壊した。
・建築基準法の仕様規定レベルでは、大地震に対しての耐震性能が低すぎるため、建築基準法の2倍以上の壁量が設けることを推奨するとの報告がある。

 など、既存の大地震による震災状況や研究者らの知見などからは、法律による耐震基準を満たしていても、耐震性能が不足している場合もあるということが指摘されている。

 そこで、新耐震基準策定WGでは、

・仕様規定と構造計算の違い。
・耐震性評価手法によるプラン上の違いがどの程度になるのか。
・それぞれのケースにおける耐震性能の確認。

を、建築基準法の仕様規定で定められている最低基準とは別に、大地震時においても倒壊しない独自基準を設定し、今後の住宅設計をする際の目安となる指標を設けることを目的として検証を実施する。

 

3.検証方法

3-1 検証内容

 耐震性能評価手法を下記の7CASEに分類し、それぞれのCASEにおいて、基準を満足する必要壁量、耐震性能を確認する。

 CASE1 建築基準法による仕様規定
 CASE2 品確法による仕様規定 耐震等級1(CASE1と同等とされている)
 CASE3 品確法による仕様規定 耐震等級2
 CASE4 品確法による仕様規定 耐震等級3
 CASE5 品確法による構造計算 耐震等級1(建築基準法による構造計算と同等)
 CASE6 品確法による構造計算 耐震等級2
 CASE7 品確法による構造計算 耐震等級3

建築基準法と品確法で要求される耐震基準レベルは下記の通りである。

基準による倍率

※仕様規定の場合は必要壁量の倍率、構造計算の場合は想定地震力の倍率を示す

 

3-2 検証プラン

 検証プランについては、熊本地震において長期優良住宅の認定を受けながらも倒壊した実プラン(A邸)の間取りを用いて、同一プランによる検討を行う。

※A邸のプランは所有者の承諾を経て検証に用いた

 

3-3 検証方法

 全CASEにおいて、既存の木造住宅構造計算ソフトであるホームズ君「構造EX」(㈱インテグラル社製)により仕様規定のチェック、許容応力度計算による構造計算のチェックを行い、それぞれのCASEで必要な耐震性能を算定する。
 さらに、それぞれのCASEにおける耐震性の確認方法として、熊本地震の際に倒壊の事象を再現した倒壊シミュレーションソフトWALLSTAT(現京都大学生存圏研究所 中川准教授開発)を使用し、全CASEにおいて、シミュレーションを実施し、倒壊の有無を確認する。

※A邸の熊本地震によるWALLSTATの検証結果は、日経ホームビルダー2016年7月号に掲載

 

4.検討条件

 今回の検証においては、耐震性能に影響する多くの要素や変数を同一条件で仮定し、耐震性に最も寄与する耐震抵抗要素の数量をそれぞれのCASEごとに必要壁量として算定する。以下に検討条件を示す。

・耐力要素は、構造用合板片面貼り(壁倍率2.5)のみとする
・地震力による検討のみとする(耐風や耐積雪は対象外)
・各評価基準で最低限満足する耐震要素(壁量)を算定する
・接合部は必要となる最低限の仕様にて算定する
・基礎地盤は考慮しない
・倒壊シミュレーションで使用する地震波は、「熊本地震本震(4月16日)益城町宮園」とする
・倒壊シミュレーションでは内装材を考慮する(日経HBでの検証と同条件)
・外装材は考慮しない

 

5.検証結果

① 各CASEの基準を満足する必要壁量を算定し、建築基準法の壁量を1.00とした場合の各CASEの壁量比率を表1に示す。

 なお、CASE2は品確法仕様規定耐震等級1であり、品確法の制度上は建築基準法同等(検討方法も建築基準法と同等)であるが、本検証では品確法で耐震等級2(建築基準法の1.25倍相当)を1.25で割り返したものとした。

検証による壁量の倍率

  • CASE1 耐力壁配置
  • CASE2 耐力壁配置
  • CASE3 耐力壁配置
  • CASE4 耐力壁配置
  • CASE5 耐力壁配置
  • CASE6 耐力壁配置
  • CASE7 耐力壁配置

②Wallstatによる検証結果を表2に示す。

 表中の数値は各CASEにおける各階各方向の最大層間変形角(rad)を示し、1/5rad以上となった場合は倒壊したことを示している。

 

シミュレーション結果によると、シミュレーションに使用した熊本地震本震(4月16日)益城町宮園では、CASE7(構造計算による耐震等級3)以外はすべて倒壊するという結果となった。

 

6.まとめ

 ①木造住宅の耐震性の確認方法は建築基準法仕様規定、品確法仕様規定、品確法構造計算の3つ存在し、同じ耐震等級でも計算上の強度は3つ存在する。

 ②品確法の耐震等級2は建築基準法の1.25倍相当、耐震等級3は建築基準法の1.5倍相当とされているが、実際に仕様規定にて計算を行うと、それぞれ平均1.58倍、平均1.91倍となり、1.25倍、1.5倍では壁量は不足している。

 ③熊本地震本震の耐震シミュレーションでは、構造計算した耐震等級3以外は倒壊するという結果となった。

 今回は耐震性能の確認方法の違いによる耐力壁量の違いや、具体的なプランにおける耐震性能によるプランの変化、倒壊シミュレーションによる性能の違いなどを把握することができた。

 しかし木造住宅の耐震性は耐震要素による違い(構造用合板以外の筋かいやその他)、接合部による違い、プランによる違いなど様々な要因により変わってくる。

今後はその耐震要素を変えた場合の性能の違いなどを検証していき、耐震基準策定の目安としていく。

 

<文責>
  耐震住宅100%実行委員会・新耐震策定ワーキンググループ
  ■メンバー

   星野貴行(理事/株式会社星野建築事務所)
   高倉 潤(理事/西日本グッドパートナー 株式会社)
   村上淳史(村上木構造デザイン室)
   福田浩史(株式会社エヌ・シー・エヌ)
   佐藤秀樹(株式会社エヌ・シー・エヌ)
   森田結一郎(株式会社エヌ・シー・エヌ)