総合技術研究WG

総合技術研究WGレポート

⾏政発、耐震シェルターを通じた「命を守る」共同作業

2024年6月12日
総合技術研究WG

令和6年元旦に能登半島を襲った「能登震災」後、ほどなくしてのこと。愛媛県伊⽅町役場より、耐震住宅100%実⾏委員会の会員である⼯務店、TOAHOME(トーアホーム)に⼀件の電話がかかってきました。電話を取ったのは、営業部次⻑の⽑利貴紀さん。電話の主は、伊⽅町役場建設課課⻑補佐の⽜尾元宣さんでした。⽜尾さんいわく、耐震住宅100%実⾏委員会が取り扱っている「⽊質耐震シェルター70K」について話を聞かせてほしいとのこと。
伊⽅町役場では令和6年度、耐震シェルターを設置したい30⼾の世帯を募り、1⼾につき定額40万円の補助⾦を交付するという施策を⽴てていたのです。この⼾数は、愛媛県内の⾃治体として破格の数字でした。こうして、⾏政(伊⽅町役場)と耐震住宅100%実⾏委員会(TOAHOME)との、「命を守る」という志を同じくした、共同作業が始まりました。

四国の最⻄端、佐⽥岬半島に位置する伊⽅町

耐震化率の低い住集落に、耐震シェルターの考えを取り⼊れる

伊⽅町は、広いとはいえない道路に⾯して家が⽴ち並ぶ住集落。平地も少ないため、⼭間に向かうほど道は細くなり、駐⾞場もない家が増えていきます。「この辺りでは、道路があるだけ便利な⽅」と⽑利さんは⾔います。もともと耐震化率の低い⼟地柄である上、⾼齢化率は県で2番⽬となっています。

⼭へ向かう狭い道に⽴ち並ぶ、焼杉壁の家々

「各集落をめぐって情報収集をするなかで、この家は⾃分の代で終わりだから、耐震化は必要ない、という声が⾮常に多いということを実感してきました。私どもとしては、もちろん家全体を耐震化していただくのが⼀番なのですが、そんなお⾦をかけても家を継ぐ⼈がいない、ということなんです」。
そのような状況の中、1か0かではない中間の答えとして、耐震シェルターというものがありうるのではないか、と伊⽅町役場では考えました。⾼⾨町⻑の耐震への強い想いもあり、⼤規模な補助⾦交付の施策に踏み切ることになったのです。

伊⽅町役場建設課課⻑補佐 ⽜尾元宣さん
TOAHOME株式会社 営業部 次⻑ ⽑利貴紀さん

町役場1階ホールに堂々展⽰された、実物の耐震シェルター

とはいえ当初、役場の⼈々も耐震シェルターとはどういうものか、写真やカタログスペック以上に知っているとはいえませんでした。当然、住⺠の⽅々もなかなかイメージがわかないということになってしまいます。そこで⾼⾨町⻑は「実物を展⽰する」ことにこだわりました。

結果的に役場1階のホールのスペースを⼤きく使って、3社のシェルターの実物3種類を展⽰することになりました。シェルターのサイズや強靭さが直感的に伝わるこの展⽰は、役場内で反響があったのはもちろんのこと、折々に役場を訪れる町の⽅々の興味を惹くインパクトがあるといいます。なかでも、⽊質耐震シェルター70Kは、空間が開放されていて圧迫感がない。壁がないので、いままでの空間とさほど変わらずに⽣活ができるのではないか、と評価されています。

TOAHOMEの⽑利さんは語ります。「箱型のいわゆるモノコックのシェルターと、ラーメン構法との違いですよね。⽊質耐震シェルター70Kは、住む⼈のことを本当に考えているシェルターだと思っています。家族みんなでテレビを⾒ている、そんなリビングをそのままに、いまの⽇常を損なわずに耐震空間ができる。耐震というのは普段の⽣活から始まっているんだということを、声を⼤にして伝えていきたいです」。

伊⽅町役場1階のホールに展⽰された、⽊質耐震シェルター70K

成果に向けて、短期的、さらに⻑期的に考えていくべきこととは?

こうして展⽰が始まり、募集が⾏われて1ヶ⽉半が経ちますが、現時点ではまだ思ったほどの成果につながっていないと⽜尾さんは⾔います。「やはり結局、『⾃分の代で終わりなんだから、これでいいわい』『いざという時はこの家と⼀緒に⾏く、それでいいがよ』ということなんでしょうか。しかし『それでもとにかく、命を守りませんか?』というのが、私たちの根本的な⽅針です。この補助⾦制度の前提として、まず家の耐震診断を受けていただく必要があるので、まずは家がどういう状態なのか、住⼈の⽅々に知っていただくことから始めていけたら、と思っています」。

「私たち『耐震住宅100%実⾏委員会』の活動指針もそうなんですが、まさにその『命を守る』というワード。TOAHOMEでは新築において、⼈命第⼀、命を守る建築、というのを重視してきたのですが、それだけでなくこれからは、リフォームや耐震シェルターについても、⼀件でも⼀棟でも多く県内に納品させてもらって、『命が助かってよかったよね』という声が多く聞こえるように活動していきたいですね」。とTOAHOMEの⽑利さんは語ります。

伊⽅町ではこれから、集落ごとに計画的に家々を訪れ、耐震についての普及啓発を⾏う個別訪問が予定されています。そこで⽜尾さんは、例年⽤いているチラシをもっとわかりやすいものに替えたり、シェルターも平易で伝わりやすい資料で紹介したりなどといったことを考えているといいます。個別訪問ですから、耐震化していない家だけでなく、新築の家も訪れます。その際には、対象となる⽅々のご家族、知⼈などを通して、間接的に、この補助⾦交付制度について周知を深められたらとも考えているそうです。「そしておそらく最終的には、⼀⼈ひとりに寄り添う、じっくり話す、そういった腰を据えた対応が必要なんじゃないでしょうか」。

⽑利さんも同様の⾒解を持っています。「町の動きと我々耐震住宅100%実⾏委員会の動きをリンクさせたり、連動させるような⼯夫がいるのかなと思います。そしてまずは、町⺠の⽅と会いたい、お話ししたいという思いがあります」。
伊⽅町では、耐震シェルターの展⽰は最低でも1年、場合によっては来年度以降も展⽰したいと考えています。「この施策は⻑い⽬で⾒なければいけないということは承知しています」と⽜尾さん。端緒についたばかりの、「命を守る」伊⽅町の取り組みは、耐震住宅100%実⾏委員会とともに、これからも続きます。

伊方町イメージキャラクター、サダンディーも耐震化を応援